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なぜヨーロッパでは「LCC新幹線」が実現したの?日本での可能性は?【上下分離・オープンアクセス】

鉄道


2013年4月、フランスで世界初のLCC新幹線"ouigo"が運転を開始しました。

鉄道の常識を覆す破格の運賃は大きな話題を呼び、
日本でも「LCC新幹線導入論」が活発に議論されました。


それから4年がたち、世界の鉄道を取り巻く情勢も変わってきているので
もう1度欧州の鉄道運営とLCC新幹線の可能性について、考えてみたいと思います。

フランス産LCC新幹線"OUIGO"の特徴

OUIGOは、フランス国鉄が運行する格安新幹線です。
パリを起点にナント・リヨン・マルセイユなどを結んでいます。

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http://www.ouigo.com/


OUIGOがLCC格安新幹線と呼ばれるのはLCC並に安いからだけではありません。
LCC並に不便だからです。

まずはOUIGOがパリに設えているターミナル駅。

Marne la Vallée(マルヌ・ラ・バレ)ターミナルは、パリ中心部から電車で40分も離れたところにあります。
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よ、40分・・・。
新宿から八王子がだいたいそのくらいの距離ですね。

さらに、「制限事項」として

・持ち込み手荷物は乗客1人当たり1人1個(55cm×27cm×15cm)が無料、2個目以降は予約で5ユーロ、当日10ユーロの追加料金が必要となる。
・乗車券は乗車4日前に携帯電話のSMSで発券される。購入は発車時刻の4時間前まで可能。
・車内改札の廃止により乗車駅ではチェックインが必要であり、発車30分前に締切となる。
・出発駅での乗車ホームなどのSMS通知サービスは1ユーロ、座席の電源使用は2ユーロ、ペットの同伴は30ユーロの追加料金が必要。

Ouigo - Wikipedia


など、運賃を下げる工夫はLCCと同じことをしています。


しかし、運賃の安さは革命的です。
パリ~ナント間で最安10ユーロ。
約1200円です。
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なお、パリとナントは約400キロの距離があります。
同じ400キロの東京~名古屋間を新幹線で移動すると、1番安い「ぷらっとこだま」でも8100円します。

400キロを新幹線で1000円台で移動できるのは、かなりイノベーションな気がするのですがいかがでしょうか。

LCC新幹線を可能にしたもの

OUIGOが誕生した背景には、欧州特有の鉄道事情があります。
その発端が、1991年の欧州理事会で提出された「欧州指令440号」でした。

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当時は鉄道の経営は悪化し、公的資金によって何とか存続していた状態でした。
とはいえ、政府が介入できる分野にも限界があります。

そこで鉄道運営に伴うあらゆる非効率性を排除するため、欧州共同体理事会が発表した指針が「欧州指令440号」です。その中には、現在の鉄道で欠かせないキーワードがありました。
・上下分離
・オープンアクセス

の2つです。

上下分離

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鉄道における上下分離は、車両の運行会社(上)線路の管理会社(下)に分かれていることをいいます。

伝統的に線路の建設・管理と車両の運行は1つの会社が行っていたのですが、
新路線の建設には多大なお金がかかります。

そこで、施設と運行を分離させようという発想が生まれたのです。

オープンアクセス

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オープンアクセスとは、民間事業者の誰もが車両の運行に入札できる制度のことをいいます。

上下分離では、管理会社の線路に運行会社1社のみ利用できるのに対し
「オープンアクセス」だと複数の運行会社が1つの線路に乗り入れることができます。

ヨーロッパでは昔から国際列車の運行は「ワゴン・リ(国際寝台車会社)」などの車両保有会社が手掛けてきました。
ワゴンリ・リが運行する列車で最も有名なのが「オリエント急行」です。
19世紀に豪華国際列車が走り出して以来、ヨーロッパの鉄道は運行会社が国鉄に線路使用料を支払うビジネスモデルになったのです。
オリエント急行 - Wikipedia
国際寝台車会社 - Wikipedia

つまり、オープンアクセスは元からヨーロッパに根付いた習慣だったのです。

それを91年に「上下分離」とあわせて規制緩和したことで、LCC新幹線を走らせる土台ができたといえます。


鉄道の規制緩和を阻む日本

ヨーロッパすげえ!!
日本も上下分離とオープンアクセスしてLCC新幹線やろうぜ!!
といきたいところですが、

なかなかそうはならない複雑な事情があります。

というのも、フランスはLCC新幹線を走らせるためのハードが非常に整っていたのです。

それが、
「新幹線の車両が在来線に乗り入れられる」
ということ。

パリ近郊の路線図を見ると、在来線(緑)に平行してTGV(赤)の線が引かれているところがあります。
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http://www.sncf.com/


実際にTGVと近郊電車で線路を共有しているところでは、新幹線とはいえかなり速度を落として運転しています。
この動画から、ヨーロッパの新幹線が日本のイメージとかなり異なることがわかると思います。

www.youtube.com

つまり、パリなど主要なヨーロッパの都市では適当な駅から新幹線を発着することができるのです。

完全に「独立」している日本の新幹線網

一方、日本の新幹線網を見た場合、LCC新幹線の可能性は見えてくるでしょうか。

日本の場合、それはかなり厳しいと思います。

なぜなら、既存の新幹線にLCCを走らせる余裕がないからです。
東海道新幹線は東海道線と完全に独立しており、レールの幅も違います。

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新幹線:1435mm 在来線:1067mm
軌間 - Wikipedia


仮にJRと新幹線が同じレールの幅なら、途中で在来線とつなげて大船あたりから大阪行きの激安新幹線を走らせることも可能だったのですが、

現状のところ、東海道新幹線は東京駅からしか発着することができません。ピークには3分おきで発着している東京駅に、LCC新幹線を割り込ませる余裕はありません。

JRにまったくメリットがない規制緩和

また、JR側にとっても線路を別会社に取り上げられ、管理費より高い線路使用料を請求されるのは釈然としない話です。
ヨーロッパのオープンアクセスは不採算路線の赤字を補うため考案されたもので、十分儲かっている新幹線に導入するメリットは全くありません。

つまり、現在の日本にとって鉄道の規制緩和は
「やろうと思えばできるがやる理由がない」
という状態なのです。

まとめ:LCCはできないが、ローカル線再生の可能性はあるかも

LCC新幹線は非現実的である、という話をしましたが
「上下分離」「オープンアクセス」の導入では、希望がありそうです。

JR北海道は地域の衰退によって経営が悪化し、路線の維持すら危うい状況になっています。
それを、「上下分離+オープンアクセス」によって解決しようという議論がさかんに行われているのです。

鉄道のオープンアクセスは日本で通用するか (5/5) - ITmedia ビジネスオンライン
「日本のオープンアクセスのチャンスは北海道にある」

http://isumi.rail.shop-pro.jp/?day=20161116
「北海道型上下分離のススメ:いすみ鉄道社長ブログ」

民間企業1社では支えきれなくなった鉄路を、規制緩和で守り抜くことができたら素晴らしいと思います。

もっと知りたい方に

この記事を書くため、複数の書籍や記事・論文を参考にしました。

「鉄道復権」はヨーロッパの数少ない私鉄「北ミラノ鉄道」の事例や
地方私鉄の経営戦略など、かなりマニアックな視点から鉄道の謎を紐解いています。

僕みたいな鉄道経営オタクにはかなり面白い、読みごたえある内容でした。


交通政策に興味を持つ読者がいてくれたら、超嬉しいです・・。